ナポリ仕立てのスーツが話題を呼んだ九〇年代はじめごろから、ときを同じくしてパターンオーダーというシステムも急速に普及しはじめた。オーダーと名がつくので注文服なのだろうと思われているが、実際のところは既製服が少しパーソナルになったものだと解釈したほうが実態に近いと思う。パターンオーダーは、ブランドによってはスーミズーラ(あなたのサイズに合わせて、という意味のイタリア語)と呼ぶが、その最大の魅力は採寸していちばん近いサイズの型紙を基に、客のためにパーソナルな微調整をしてくれるところだ。完成までに時間はかかるものの、一着つくってしまえば次からは同じデザインならば生地を選ぶだけでつくってもらえる。というのは、一度、オーダーを受けた顧客の型紙は、ブランドの工場にずっと保存されるので、生地とデザインさえ伝えれば、同じ型紙を使って新たなスーツやジャケットを制作できるシステムを採用しているからだ。大好きなブランドの工場のどこかに自分の型紙がキープされているのか、と思うと、なんともいえず自尊心をくすぐられる。ただ、基本は既製服なので、パーソナルといってもシルエットそのものを崩すことはできない。サイズの調整はプラス何センチ、マイナス何センチと決まっているし、大幅なデザインの変更も不可能だ。価格はブランドによるが、おおよそ既製服の二、三割増しといったところだろうか。大好きなブランドがすでにあって、そのブランドのシルエットで、よりジャストフィットしたスーツをつくりたいと思う人には合理的なシステムだと思う。注文服と既製服の中庸がパターンオーダーだ。
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